史学科の教員たちはどんな本を選んだか

立教大学文学部書店トークイベント記録

2020/04/02

文学部書店トークイベント

OVERVIEW

2019年にジュンク堂書店 池袋本店と連携して行われた「立教大学文学部書店~池袋に文化の灯台を~」。文学部教員約60名が約700点近い選書を行ったほかさまざまなイベントが行われました。ここでは2019年6月25日に行われた史学科の小澤実教授、佐藤雄基准教授、松原宏之教授によるトークイベントの記録をご紹介します。

史学科の教員たちはどんな本を選んだか

史学科 小澤 実(世界史)教授・佐藤 雄基(日本史)准教授 司会:松原 宏之 教授

参考文献を手掛かりに一つのテーマで何冊も読む

佐藤:本は世の中にあふれていますよね。ただ、書店の入り口に平積みになっている本は、専門家から見ると「どうしてこの本が?」という本が無きにしも非ずということがあります。

松原:タイトルで煽っていると感じることはありますね。

佐藤:でも、それはそれでいいと思っています。そういう本を入り口にして、いい本に巡り会うこともできますから。骨董品で目利きになるためには、まがい物をつかまされてやけどをするという経験も必要だと聞いたことがあります。本も、「まがい物」を含めてたくさん読んでほしい。
本を選ぶにあたって一点アドバイスすると、きちんと参考文献が挙がっている本を読んでみること。その参考文献を手掛かりに、同じようなテーマで何冊も読んでいくと、だんだん本を見る目が養われてきます。より早く自分で「これはまがい物だった」と気づけますし、自分の中に基準みたいなものができます。

松原:そう考えると、本屋さんはよくできたシステムですよね。図書館だと本の数が多過ぎるので、自分で探さなくてはなりませんが、本屋さんの場合は、まがい物も含めて、面出しした本の周りに「関連する本はこれ」と並べますよね。実際、研究者たちが注目している本がひそかに置いてあったりして、関連を追いやすい。いい本屋であればあるほど、古典から最前線に近いところまで本を並べてくれるのは助かるところです。

佐藤:私自身、高校3年生のとき予備校に通いはじめた頃、初めて横浜の大型書店に行ったんですが、世の中にこんなに本があるんだと感動しました。地元の本屋さんだと、本当に文庫とか新書がちょっと置いてあるぐらいで、そもそも専門書とか教養書とか、本にどんな種類があるか区別がついていなかった。

小澤:愛媛の片田舎に生まれた私も、大学で東京に来るまで教養書や専門書が揃っている立派な本屋は見たことがありませんでした。街中には新刊書店があり郊外に行けば古本屋がありましたが、本の品ぞろえもしれているので、その中から自分の関心のある本をセレクトして読むしかありません。手に取るのは小説ばかりで、歴史書なんて読んだことがなかったです。ですがその時期に、とりあえず当たりでも外れでもいいから自分の関心の赴くままに片っ端から読んで、歴史とは関係ない情報や広がりを蓄積してきたというのはあります。そうした中で徐々に自分に合うものが芽生えてきたのかもしれません。大学に入り、友人に神田や早稲田の古本屋街に連れていってもらったりしていたのですが、そういった所で自分に合う本に次々出会うことができたのは、大学入学以前に幅広く本を読んでいたからかなと。そういったことを考えると、「私は中世史に関心があるから中世史の本ばかり読む」というのではなく、もっと広い範囲で、はずれでもいいからとりあえず目についた本を読んでおいたほうがその後の選択肢が広がると思います。

本との“思わぬ出会い”を増やすことが大切

小澤:また、つまらないと思ったら途中で読むのをやめればいいのです。

松原:皆さん生真面目に読もうとしますが、途中で捨てるのは我々の権利です。僕なんかはそういういいかげんな本の読み方をしていたのですが、小澤さんもそういうふうに読んでいたとはこころづよい。

小澤:私は田舎の人間なので情報に飢えていたというのはあります。私の頃はネットなんてまだなかったですから、ネットで同好の士を探すというのはなかったわけです。まあ、寂しかったのでしょう。
別に日々の生活がつまらなかったというわけではないのですが、本の中の別世界に行きたかったんですよね。中世を選んだというのも、そういうところがあったのかもしれません。新聞を読んでいたらある程度想像がつくような時代ではなくて、新聞を読んでも分からないような異世界に関心がありましたから。
普段、生活していて入ってくる情報のほとんどは、スマホかネットかテレビ経由だと思います。でも本を読んでいる人は分かるかと思うのですが、スマホやテレビで得られる情報と本で得られる情報はちょっと違います。前者で得られる情報は誰もが共通して持っている情報です。他方、本というのは、誰もが同じ本を読んでいるわけではないので、それを読むことで人と違う世界に行くためのゲートを与えてくれます。さらに言えば、固有の読書経験を通じて、自分は人の知らない世界を知っているというある種の優越感を得る。そしてそれは、自分のアイデンティティーとまでは言いませんが、人とは違う自分つくることもできるように思います。それは、多分、現段階では本じゃないとできないと思います。
ですから仮に中世史をやっていたとして、中世史だけではなく、アメリカ現代史や西洋古代史の本を読んでみるなど、自分が所属しているサークルの人と違うこともあえてやってみると。そういうことができるのは本でしょうし、その中で関心のあるものを簡単に手に取ることができるのというのは、大型書店のいいところだと思います。

松原:本屋さんは、今は基本的には新刊書店という格好ですが、オンデマンドで出すみたいなこともだんだん楽になりつつあるので、新刊から古書までが交じった本屋さんとかが日本でも増えてくるかもしれませんね。

小澤:他方で、本屋は、何か特定の探し物を求めて行くものではないかもしれません。とくに古本屋なんて、この本が欲しいから行ったからといってまず見つかりません。思いもかけない時に、棚の片隅とかで見つかったりすることも。ですから目的を持って行くのではなく、「あればいいな」くらいの気持ちで、定期ルートを持って、一月に一遍ぐらい、週末とかに回ってみるといろいろ面白い発見があるような気もします。

松原:欲しいものだったらAmazonで買えばいいので。

佐藤:実際、それは大きな問題。今は新刊も古本もネットで買うことのできる時代になっているが、ネットで本を買うときの問題は結局、「知らない」と買えないということだと思います。もしくはキーワードで、お薦めで出てくるとか。そうではなく、キーワード検索とかでも出てこない、ましてやAmazonがお薦めしてくれない本にばったり出会って「これ、タイトル全然違うけれど、自分の気になっていることと近い」みたいな、そういう出会いは本を実際に手に取ってみるとあります。図書館でも、開架を片っ端から手に取って目次をぱらぱら見てみるだけでも違うと思います。「知っている」本しか読めないというのは、今、一番の問題だと思います。

松原:むしろ、思わぬ出会いをいかに増やすかが、大事だったりするということですね。


※記事の内容は取材時点のものであり、最新の情報とは異なる場合があります。

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