歴史を読み解く者が未来を制する

史学科超域文化学専修 松原 宏之 教授

2018/01/01

教員に聞く!文学部で学べること

OVERVIEW

史学科超域文化学専修の松原 宏之教授に「文学部で学べること」と題して、インタビューしました。

自分の足場を考え直す

歴史とは過去のことと思われるかもしれません。でも実は、誰もがいまこの瞬間も歴史を内面化して生きています。こいつを手なずける者こそが未来を制します。

「あぁ来年の今頃は学園祭の準備をしながら、受験勉強も忙しいな」と思う高校生諸君を想像してみましょう。ほら、ここでも人は<歴史する>のです。学年暦に沿って暮らせるだろうという見通しを支えているのは、きっと戦争は起きないし、年間予定が狂うような事件もないだろうという判断です。

ごく当然のようでいて、この判断が現代日本的とでも言うべきものなのにお気づきでしょうか。紛争地帯や、財政破綻国家のもとに暮らす、明日をも知らぬ人たちがそんな年間計画を立てるでしょうか。当たり前のような未来予想は、これまでの経験を総合し、世界情勢の来し方を眺め(眺めなくても大丈夫だと判断し)て得られます。歴史学ですね。なにげなく来年を思うその瞬間にも、われわれはこの歴史学を使っているわけです。

もちろん、そんな大げさに考える人は少数派でしょう。今までもそうだったという確信(=歴史像)が支えてくれる限り、その来年像はなんてこともない当たり前ですから。そして、当たり前だという判断の積み重ねは、それが判断だったことを忘れさせて、その歴史像はまるで不変の事実のようにふるまい始めます。

このとき私たちは、歴史を使っているどころか、歴史に使われ始めます。自分が未来を思い描いているつもりが、うっかりすると20世紀後半型の日本史理解が18歳や22歳を区切りだと思い込ませるのかもしれません。いまはもう21世紀だと言いますのに!

そんな羽目に陥らずに自分の手元に未来をつなぎ止めておくのが、史学科での学びのひとつの醍醐味だろうと思います。お仕着せでない、自分なりの時空間の理解がその基盤です。

現代を学際的に解き明かす

そのために史学科の学びは、地理学、人類学、民俗学、地域研究、建築学といった領域を含み、多彩な学知や方法との交流を歓迎します。史学科が力を入れているフィールドワーク科目はそのひとつの例です。

昨年はサンフランシスコに出かけました。街を歩き、インタビューを重ね、案内を請い、地図や統計や歴史文書にもあたります。浮かび上がってきたサンフランシスコ像は重層的なものでした。

Googleで名高いシリコンバレーをしたがえる、アメリカ合衆国西海岸の先進都市といったイメージがあるでしょうか。そこは同時に、多くの移民が集まり、性的マイノリティが声を上げる多文化社会の実験場でもあります。中南米からのラティーノたちの経験や痕跡は、この町が中南米に広がるスペイン語世界の北端なのを教えてくれます。そこはイギリス系植民地に先立つスペイン帝国の地ですし、その基層には先住民たちの歴史があります。日系移民にうかがった家族の物語からは、この町の人々が太平洋を通してアジア・環太平洋世界とずっと結びついてきたことに気づかずにはいられません。現代サンフランシスコへの旅は、史学科的なレンズを通すと、時空間を四方八方に拡張するような経験になるのです。

(取材日:2018年1月)

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