卒論を書こう!先輩の体験談 2023

卒論を書こう!先輩の体験談

2023/05/11

卒論を書こう!先輩の体験談

OVERVIEW

文学部では、卒業論文は必修科目ではありませんが、できるだけ多くのみなさんにその執筆を勧めています。
理由はいくつかありますが、何よりもその経験があなたの人生の大きな財産となるからです。
文学部で人間存在の意味を深く考える作業に取り組んだのですから、是非、皆さんの若き日の到達点を形にして残し、将来の人生を評価する自分の基準を作って欲しいのです。
その思いから今回、優れた卒業論文を執筆した先輩たちの声を集めてみました。どんなテーマに取り組んだのか、また書き終えてどうだったのかなど、参考にしてみてください。

No.01 卒論執筆を通して「自分なりの哲学」を獲得

来るべき人間 ー人格を巡るエスポジトとアガンベンの思索からー
キリスト教学科 石原俊樹さん


入学前よりイタリア現代思想、特にジョルジョ・アガンベンの思想に興味を持っていました。卒論では同じくイタリアの政治学者ロベルト・エスポジトの議論を出発点に、近代的人格概念、「人間性」や共同体の理解についての限界を明らかにするとともに、そうした人格概念を代替し得る、不定形かつ動的な非人格存在の可能性を、アガンベンが『到来する共同体』で論じている「なんであれかまわない存在」という概念のうちに探究しようとしました。

卒論の執筆は大学での学びの集大成であり、ある到達点における記念碑的性格を持つもの。広範な知識や議論を一つの論旨の下に連関させながら再構築していくこと、そしてそれぞれを深く掘り下げていく作業を通じて、社会生活上必要となる「自分なりの哲学」を獲得できたようで達成感があります。

これから執筆される方は、可能であれば、積極的に指導教員の先生やゼミなどの仲間とコミュニケーションをとり、フィードバックをもらうと良いと思います。私自身、自分では気づくことのできない問題を指摘していただいたことが貴重な経験になりました。

No.02 先行研究や参考文献は早い段階で探し、計画的に執筆を

『ロミオとジュリエット』から映画『ティーン・ビーチ・ムービー』まで——アダプテーションを通じて 21世紀に受け継がれる古典の魅力——
文学科英米文学専修 長谷川友香さん


入学前にシェイクスピア作品を初めて読み、物語のおもしろさに魅力を感じました。3年次のゼミでは『ロミオとジュリエット』を扱い、精読作業と自分たちで実際に演技発表を行うことで、表現方法によって作品がガラリと変わる点に魅力を感じるように。その過程で、自身が中学生のときに見て以来大好きな映画である『ティーン・ビーチ・ムービー』が、『ロミオとジュリエット』を基にしていることに気づき、現代にまで通じるシェイクスピア作品の魅力を、卒論で分析したいと思いました。

シェイクスピアによる『ロミオとジュリエット』が誕生して400年以上が経過しているため、先行研究や参考資料の数が膨大で、卒論の参考になる資料を探すのがとても大変でした。さらに書きたい内容が膨れ上がり、文章構成も複雑になったことで、序論においてどのように先行研究を説明するか、どの程度まで後の章の話をするかなどで行き詰ったこともありました。

卒論を執筆するなら、先行研究や参考文献を早いうちから探すなど、計画的に実行するのが有効です。またいざ書き始めた際、言葉選びに悩みなかなか執筆が進まず、スケジュールが押すことも考えられます。まずは箇条書きでもいいので書きたいことをとにかく書き進め、最後に言葉を直していくスタイルをお勧めします。

No.03 一生ものの自信と、大学生活の意義の実感を与えてくれた

錦鯉を作り上げた日本とドイツにおける鯉養殖
文学科ドイツ文学専修 庄司凪さん


子どもの頃から鯉が好きで、錦鯉の二大原種のうちのひとつがドイツ周辺をルーツとする鯉ということもあり、卒論でも鯉について書こうと考えました。全学共通カリキュラムの授業で偶然学んだ宗教倫理と生殖についての問題や、キリスト教の動物観などにもインスピレーションを得て、鯉が日独両国において宗教的な戒律と関連しながら養殖の対象となっていったことについて書くことにしました。

自分の好きという気持ちが大学での学びによって肉付けされ、卒論として形になるという経験ができたことがとても嬉しいです。大学で何を学んできたのか? と問われたときに、「鯉です」と胸を張って答えられること、そしてそれを裏付ける卒業論文という成果を評価していただけた経験は、一生ものの自信と、大学生活の意義の実感を与えてくれたと感じています。

文学部での学びも、卒論の執筆も、将来なんの役に立つのかと思われがちかもしれませんが、自分が考えているよりも物事はたくさんのことと関係しているもの。視野を広く持ち、意外と思われるところにも目を向けて情報を仕入れ、精査する過程が重要であるという意識を身につけることができたのは、卒論を書いて良かったと思える理由のひとつです。

No.04 大きな達成感と、新たな知識を得る楽しさがあった

エキゾチックな日本 ー他文化の受容のしかた・されかたー
文学科フランス文学専修 照井翔さん


私自身の興味である植物、自然のテーマがここに多く含まれており、またフランスとの歴史的な繋がりが大いにあるため、まずは純粋な好奇心からこのテーマを選びました。さらにジャポニスムを観察することは、今後の文化交流においても多くのヒントを与えてくれるものであると感じたことも大きいです。

卒論の執筆を通じ、苦心しながらも自分の興味や考えを一つの形にしていくことが自分の成長に繋がったとともに、大きな達成感を得ることができました。また大学での学びの集大成として、これからも残り続けるものができたことにも喜びを感じています。

さらにテーマ自体の知識はもちろん、この過程で参照にした資料などから新たに興味の幅を広げられる点も醍醐味でした。膨大な情報のなかから取捨選択して核となる部分を作ることなど、苦心した場面は多かったですが、普段は開かないような資料などから、新たな知識を得る楽しさを感じました。

No.05 「研究小論文」「卒業論文予備研究」の履修で卒論が現実的に

埋もれた言葉を語り直すーー鮎川信夫の(遺言執行)——
文学科日本文学専修 舘田海光さん


2年次に履修した近現代詩を扱う演習において「戦後詩」と呼ばれるジャンルに興味を抱いたことがこのテーマを選んだ理由です。特に日本戦後詩を代表する詩人の一人である鮎川信夫の「死んだ男」という詩篇と、そのなかに登場する「遺言執行人」という語に強く関心を抱いたため、卒論では鮎川信夫にとっての<遺言執行>とは何だったのか、なぜ鮎川はそのような詩語とともに戦後の詩作活動を始めたのか、を検討しました。

学部の4年間という時間を使って自分は何を達成することができたのか、という問いの答えとして、卒論という目に見える成果物が手に入ったことはとても大きな意義のあることだと思っています。書き上げた卒論を自分の手で提出するときには、大きな達成感を得ることができました。

卒論に取り組むかどうか迷っているのであれば、2年次から研究小論文などの授業を履修することをお勧めしたいです。卒論というと、専門的で高度な内容にしなくてはならないという漠然としたイメージがあると思いますが、それだけで「大変そう」と判断し、執筆を諦めてしまうのはとてももったいないこと。少しでも興味があるのであれば、ぜひ研究小論文や卒業論文予備研究を履修してみてください。卒論がより具体的で現実的なものとして見えてくるでしょう。書くかどうかを判断するのは、それが分かってからでも遅くないと思います。

No.06 卒論を書き上げることで自己肯定感が高まった

フランス思想史におけるennui——モンテーニュ、パスカル、ジャンケレヴィッチーー
文学科文芸思想専修 天辰公紀さん


先行研究というべき著作をいくつか読むにしたがって、退屈やメランコリーなどの概念に、共通の祖先というべき語があることがわかりました。そしてフランス語の「アンニュイ」ennuiはときにそれらの概念の同義語として使われるということも知り、さらに日本語で読める文献はこの点にほぼ目をつけておらず、これはおもしろいと思い、このときはじめて「アンニュイ」について書こうと決めました。

未邦訳のフランス語文献を読むにあたり、自力での翻訳が計画通りに進まないときは悲しかったです。何時間も机に向かって、1頁も読んでいないとわかったときなども、自分には到底できないことを始めてしまったのではないかと不安に思うこともありました。そんなときは匙を投げたくなったり、自己嫌悪に走ったりしてしまいます。想像通りに執筆が進まないときの自分の気持ちとの付き合い方には、一番苦労しました。

卒業制作や卒業論文は、絞られたテーマについて1年以上考え続けるという、これまであまりない機会でした。そうしてそのテーマについては大学で一番と言えるくらい詳しくなることができたら、自信を持って、他人に自分の卒論のテーマを伝えられるでしょう。このとき自己肯定感が高まります。われわれは自分自身を「よい」と言えるのです。

No.07 文献や史料が充実する図書館を最大限に活用

光海君により試行された宣恵法に始まる京畿大同法の運用実態についてー『消遣法』を史料として
史学科日本史学専修 小林礼佳さん


入学当初から朝鮮史を研究したいと考えており、韓国時代劇ドラマや文献に触れていくなかで、朝鮮王朝第15代国王である光海君政権の諸政策に興味を持ち、卒論では税制・財政改革として評価されている大同法をテーマとして取り上げました。

朝鮮史を研究分野としたため、史料研究や朝鮮語文献の利用において高度な朝鮮語の語学力が求められました。私は上級朝鮮語を履修していましたが、専門的な用語の読解についてはやはり苦心しました。ただその過程で獲得した語学力と多様な視座は、自身の進路選択に大きく影響したと考えています。

これから執筆される方には、ぜひ多くの先行研究や文献に当たっていただきたいです。多様な見解や、さまざまな視座に触れていくなかで、時間をかけて自身の興味・関心に耳を傾けてあげてください。自分が明らかにしたいこと、そして明らかにすることで自身の研究分野にいかように貢献できるのか、を明確化することが卒論執筆の第一歩。大学での一つひとつの講義を大切にし、文献や史資料が充実する図書館を最大限活用していただければと思います。

No.08 自分の力で真実を知りたいという想いが原動力に

日本統治下の朝鮮における「創氏改名」
史学科世界史学専修 高倉桃子さん


K-POPアイドルが好きだったことをきっかけに、日韓の歴史に興味を持つようになり、このテーマにたどり着きました。ネット上などで両国とも主観的な議論が巻き起こりがちで、何が真実なのか分からなかったり、どの情報を信用するべきか判断がつかなかったりしたため、それであれば自分で調べて、自分の力で真実を知りたいと考え、調査を行いました。

その結果、知らなかった日韓の歴史や、真実と呼べる事柄に触れることができたことが、卒論に取り組んで良かったと感じている点です。

苦労した点は、手に入らない朝鮮側の史料が多かったことです。朝鮮にとってはタブーといえる事柄であるため、そもそも残されている史料が少なかったり、調査している方が少なかったり。ただそんななかでも都立中央図書館には朝鮮関連の史料が多く、大変助かりました。朝鮮関連の研究をしている人はぜひ活用してほしいです。

No.09 卒論は疑問を探究する良い機会であり、大学で学んだ証

祭り囃子の継承と地域社会—秩父祭中町における秩父屋台囃子の継承を例に
史学科超域文化学専修 浅見太暉さん


高校在学時から民俗学に興味があり、長い期間フィールドワークを行ったうえで卒論を執筆したいと考えていました。所属ゼミが決まった矢先にコロナ禍となり行動範囲が制限されたため、幼い頃から生活の一部であった秩父祭(秩父夜祭)、なかでも秩父屋台囃子の継承をテーマにすることに決めました。

卒論では映像を使えないため、文章と写真だけで民族芸能の継承現場の現状と課題を詳細に伝えなければなりません。卒論は自分の研究を先行研究のなかに位置づけていくという営みですから、自分だけが理解できる抽象的な文章ではいけないと自戒し、はじめて読む人にも分かりやすい文章にすることを心掛けました。

振り返ると、さまざまな分野の書籍や論文を読んでいたことが卒論の学際的な記述に繋がったのだと思います。立教大学の図書館は宝の山。超域文化学専修ではフィールドワークを通じて得た情報を基に執筆する学生が多いと思いますが、それに加えて大学図書館も最大限に活用することを勧めます。

No.10 これまで知らなかった世界に触れることができた

関東大震災と集合的記憶—資格表象を中心に—
教育学科 吉田奈央さん


関東大震災の写真整理のアルバイトをしていた際、関東大震災当時、現在の東京工業大学において教鞭をとっていた在日外国人のエドガー・サイクス氏が残した約200枚の写真群と出会いました。これらの写真群を卒論にどのように活かせるかを考えた結果、私の専攻である教育社会学との関連から、関東大震災の集合的記憶と視覚表象の関係性をテーマにすることに決めました。

もっとも苦心した点は、在日外国人の写真の裏書きを史料として使えるものにしたことです。何と書いてあるか読めなかったり、どのように翻訳すればいいか悩んだり、つねに試行錯誤を繰り返していました。実際に東京工業大学の史料館を訪問し、当時の卒業アルバムや卒業文集を見せていただいたり、写真が撮影された場所を回ってみたりしたことで、裏書きをより立体的に理解できたと思います。

おそらく卒論を書かなければ、関東大震災という今から100年前に起こった出来事を知る機会は私の人生のなかでなかったと思います。執筆したことで自分が知らなかった世界を知ることができました。また東京工業大学の史料館を実際に訪問し、震災に関する史料を拝見したことで、その史料館の方との交流も含めて、さらに新たな世界を知ることができたと思います。

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