卒論を書こう!先輩の体験談 2017

卒論を書こう!先輩の体験談

2017/04/01

卒論を書こう!先輩の体験談

OVERVIEW

文学部では、卒業論文を必修科目にしていません。必修化にはどうしても弊害が伴うからです。ですが、できれば自主的に前向きに執筆して欲しいですし、文学部はそうすることを強く勧めています。
理由はいくつかありますが、いちばんは、その経験があなたの財産となるからです。文学部で人間存在の意味を深く考える作業に取り組んだのですから、是非、皆さんの若き日の到達点を形にして残し、将来の人生を評価する自分の基準を作って欲しいのです。
その思いから今回、優れた卒業論文を執筆した先輩たちの声を集めてみました。どんなテーマに取り組んだのか、また書き終えてどうだったのかなど、参考にしてみてください。

No.01 聖母マリアの伝承に着目した研究を大学院進学後の修士論文につなげた

聖書におけるマリア ——処女懐胎への言及に着目して——
キリスト教学科 川越 菜都美 さん

キリスト教圏において、聖母マリアにまつわる伝承は音楽、絵画などの数多くの芸術の題材として用いられ、後世の社会に多くの影響を与えてきましたが、実は新約聖書正典各書ではマリアに関する記述は非常に限られています。私はこのわずかな記述から後世の教会においてどのように伝承が拡大解釈され、肉付けされ、マリア崇敬に発展していったかという過程に関心を持ちました。そこで、卒論ではマリア崇敬の主要な根拠の一つである処女懐胎に焦点を当てた研究を行い、ヘレニズム世界の概念であった処女懐胎が正典福音書に取り入れられた経緯や、マリアの処女懐胎伝承が成立したと考えられる年代を検証しました。

実際に卒業論文の執筆作業を進めてみると、たくさんの欧文で書かれた先行研究を参照するのに想像以上に時間がかかってしまい、とても苦労しましたが、もともと大学院進学を考えており、修士論文に繋がる下地を作ることができたと思います。卒論に取り組む後輩の皆さんにアドバイスをするとしたら、できるだけ早めにテーマを決めて、遅くとも夏休み頃には着手することをおすすめしたいです。

No.02 自分の好きなことと真剣に向き合える貴重な機会を持てたことに感謝

中高ドイツ語からの母音変化 ——『イーヴェイン』で考察する二重母音化——
文学科 ドイツ文学専修 髙橋 朝子 さん

私はゲルマン語から発展したドイツ語の変遷やその独自性に関心を持っていましたが、特に興味を持ったのは音韻の変化です。なかでも12〜16世紀頃に起きた「単母音の二重母音化」という現象は中世から現代の表記に変わる重要なポイントだと考え、卒論のテーマに選びました。指導教授から中世ドイツの宮廷叙事詩『イーヴェイン』の写本を利用した調査を薦められ、解読に挑戦しましたが、読めるようになるまで非常に時間がかかりました。当初は暗号を解読しているような気持ちでしたが、指導を受けながら少しずつ読めるようになるととても楽しくなっていきました。

卒論執筆を通じ、自分の好きなことと真剣に向き合う機会が持て、大学4年間の自分が感じた想いをしっかりと形に残すことができました。卒論を書かなければそういった想いはいつの間にか消えてしまい、卒業後は少しドイツ語に詳しいだけの社会人になっていたかもしれません。

これから卒論に取り組む後輩には、スケジュール管理の大切さについて伝えたいです。就職活動中は時間がない前提でスケジュールを考えるべきですし、調査にかける時間も考えなければいけません。時間のあるうちに教授に相談してやるべきことを明確にしておくことをおすすめします。

No.03 卒論執筆から得るものは大きい書いて良かったと感じることばかり

ルソー『告白』における「食」の情景描写
文学科 フランス文学専修 朝日 香菜 さん

ルソー『告白』の中の「食」についての描写をテーマに卒業論文を書こうと考えたのは、もともと私は「食」について強い関心を抱いており、たまたまゼミで扱ったルソーの『告白』の中に「食」に関する描写が多くなされていることに気づいたからです。実際に作業を進めてみると、『告白』の情景描写を追っていく過程で見えてきたテーマが多岐にわたっていたため、それらを一つの論文としてまとめていくことに苦労しました。

大学生活の中では他学部の授業を含めて広く浅く勉強することが多かったため、自らの専門分野について自信を持って語れないことにコンプレックスを感じていましたが、卒業論文に取り組むことで自分自身の学びに自信がついたことが何より良かったと考えています。また、執筆過程で苦楽を共にした仲間と絆が深まったことや、文章の書き方を習得できたことも大きな財産になったと感じています。卒論執筆から得るものは想像以上に大きく、書いて良かったと感じることばかりでした。大学生活でしかできない経験の一つとして、ぜひ後輩にも経験して欲しいと思います。気負い過ぎず、モチベーションを維持して書き上げてください。

No.04 大学時代の集大成としての創作で4年間で感じたこと、培ったことを形にできた

「ポーカーフェイスの向こう側」
文学科 文芸・思想専修 重清 良太さん

私が卒論としてエッセイの創作を選んだ理由は、文芸・思想専修では卒業制作という形での提出が認められていたからです。演習で創作を行ってきた私が集大成として何かを残すのであれば卒業制作以外には考えられませんでした。エッセイには自己の体験や感性が多く盛り込まれており、普段ポーカーフェイスな私の向こう側が記されているという意味をタイトルに込めました。

集大成という心持ちで臨んだ卒業制作。納得のいく出来に仕上げるまでには時間がかかり、作品に目を通す度に「こうした方がいいのでは」と思う箇所が見つかりました。それでも妥協せず、提出期限までにどこまで完成度を高められるか苦心しました。

作品を書いて良かったことは、大学生活で感じたこと、培ったことを形として残せたことです。教授や友人に評価してもらえることにも喜びを覚えました。自分が4年間学んできたことを家族や友人に示すことができるのも卒業論文(制作)の魅力の一つです。執筆のための時間の確保に苦労する人も多いかもしれませんが、完成した時は達成感はもちろん色々な感情が芽生えるはずです。ぜひ、後輩の皆さんには納得のいくものを書き上げて欲しいと思います。

※注 2017年度より文芸・思想専修における「エッセイ」の提出は不可となっています。

No.05 受動的な学びから自分の考えを能動的に発信する学びへ昇華

和辻哲郎『風土---人間学的考察』における人間観と風土論に対する地理学的批判
史学科 世界史専修 山井 美智子 さん

史学科の講義で批判的な文脈で取り上げられていた和辻哲郎の風土論に興味を持ち、この考え方が戦後に受けてきた評価について疑問を抱くようになったため、自分の考えをまとめたいと卒論のテーマとしました。

いざ書き始めてみると、考察にオリジナリティーを出すことに苦心しました。和辻哲郎は先行研究の数が多く、それらの内容や傾向を把握するだけで時間がかかりました。その上、自分で思いついたつもりだった考察が先行研究から見つかってしまうこともあり、そのような時は自分の考察を補強する方法で適宜引用することで対処しました。

卒業論文を書いて良かった点は、自らの学びを講義や本から得た受動的なものから、自分の考えを能動的に発信するという一歩先の段階へと昇華できたことです。受け身で得た知識を自らの考察として作り上げていくのは訓練が必要な作業であり、卒業論文の執筆はまさにその訓練となりました。また、大学で学んだことを聞かれた際、自信を持って話せる内容ができたことも良かった点です。

史学科では卒論は必修ではありませんが、予備論文に比べてじっくり取り組むことができます。ぜひ卒論に挑戦していただきたいです。

No.06 1年間かけて自分と向き合い大きな自信と達成感につながった 

ブラジャーはただの布ではない ——ワコールと鴨居羊子が手掛けた女性下着の比較から——
教育学科 二宮 花さん

「触れる」ことが人々にもたらす心理的効果にもともと興味があり、それをより身近なものとしてとらえようとした結果、女性たちが常日頃から何気なく身につけているブラジャーというアイテムに着目するに至りました。そして、ブラジャーが人々にもたらす心理的効果を考えることで、女性たちが現代社会を自分らしく生きていくための一つの可能性を提示したいと考えました。

執筆の上で苦労した点は明確な数値や正解が存在しないこともあり、論文の完成形のイメージを掴むまでに時間がかかり、自分の思考をいかに説得力のあるものにしていくかということでした。

論文執筆を通じ、文章を書く力がついたことに加え、自分の意見を主張する力や他人の考えに対して思考を深める力がついたと感じています。また、1年間かけて自分と向き合う機会を持てたことは大きな自信にもつながりました。

実は当初は卒業論文を書く予定はありませんでしたが、論文を完成させた時の達成感や、制作途中の思考の深まりは、本当に価値あるものだと今になって感じています。書けるかどうかは書いてみないとわかりません。少しでも興味があるなら是非履修登録をしておくことをお勧めしたいです。

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